私たちのからだを構成するタンパク質は、アミノ酸が重合して出来た高分子です。アミノ酸配列の情報はDNA上に記述されており、その情報、すなわち遺伝情報はまずmRNAへと「転写」され、ついでタンパク質へと「翻訳」されます。
翻訳において中心的役割を担うのはRNAとタンパク質からなる巨大複合体、リボソームです。2009年のノーベル化学賞がリボソームの構造と機能の解析に対して授与されたことは記憶に新しいところです。リボソームはmRNA上の「開始シグナル」に結合し、そこからタンパク質分子を合成しながらmRNA上を進み、「終結シグナル」に到達して翻訳を終結します。私たちは最近、翻訳終結に関係する新しい因子を大腸菌から見出しました。この因子は、mRNAが本来持つべき「終結シグナル」に欠陥があり、通常の翻訳終結が出来ない時にはたらく、これまで知られていない特殊な因子でした。このように、単純な生物とされるバクテリアの中でも、特に解析が進んだ大腸菌においてさえ、まだまだわからないことが数多く残されています。私たちは分子遺伝学的アプローチでそれらを解明し、生命の全体像を理解することを目指しています。
生物学科
-生命現象の基本原理の理解を目指す-
生物学科の研究分野の一例
生命現象の全体像の解明 〜バクテリアをモデル生物として〜
植物の発生分化のしくみを分子レベルで明らかにする
植物のからだを構成する根、茎、葉、花などの器官は、表皮や柔細胞、維管束組織といった様々な組織や細胞からできています。これらの多細胞からなる器官が一定のパターンで正確に作られるのは、適材適所に遺伝子の発現を制御する調節因子タンパク質が働き、その指令に従って、未分化な細胞が特定の役割を持った細胞へと分化するからです。私たちはこうした細胞分化の鍵となる因子を見つけ、植物のからだ作りのしくみを分子レベルで明らかにする研究を行っています。近年、突然変異株を出発材料とする遺伝学的な解析に適したモデル植物として、シロイヌナズナが盛んに用いられ、多くの生理現象の分子メカニズムが明らかにされてきました。私たちの研究室では、早くからシロイヌナズナの有用性に注目し、表皮細胞分化のしくみの解明や、茎の伸長に関わる生理活性物質(ポリアミン)の発見などで、先駆的な成果をあげています。
これらの研究活動は、農作物への応用が期待される植物科学の一端を担うだけでなく、動植物を問わず生命とは何かという究極の難問へ解答の手がかりを与えるものであり、また、生きているとはどういうことかについて、学生の皆さんが自ら考える貴重な機会でもあります。
昆虫の体内時計のしくみを探る
サーカディアンリズムは、日周期への適応としてほとんどの生物に共通にみられる約24時間の周期性で、動物では行動や感覚、内分泌や代謝などに顕著に現れます。このリズムを制御する体内時計は、時計遺伝子とよばれる数種の遺伝子の働きによって動いていると考えられています。私たちはコオロギ類を始めとして数種の昆虫を用いて、各種時計遺伝子をクローニングし、その発現リズムを調べるとともに、RNA干渉法を用いて各時計遺伝子の役割を解析し、昆虫体内時計の振動機構の解明を目指した研究を進めています。また、昆虫の多くは、季節への適応として日長によって発育や休眠などの生理状態を調節する性質、すなわち光周性を示します。体内時計はこの光周性にも関わっています。私たちは、時計遺伝子の発現を手がかりにして、光周性の機構を分子レベルで明らかにする研究を進めています。これらの研究を通して、生物が環境に適応する仕組みの理解を深めることができると考えています。