岡山大学 理学部

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体内時計の新たな出力物質をショウジョウバエで発見!

2014年09月16日

 岡山大学大学院自然科学研究科時間生物学研究室の吉井大志准教授は、ドイツのヴュルツブルク大学とスウェーデンのストックホルム大学との国際共同研究で、キイロショウジョウバエの概日時計(一日の長さを測る体内時計)の出力物質を新たに発見しました。キイロショウジョウバエでは約10年ぶりに、2番目の時計出力因子の発見です。
 本研究成果は、2014年7月16日に米国の科学雑誌『Journal of Neuroscience』に掲載されました。
 現在、脳内の時計細胞で作られる時間情報が、どのようにして全身に伝えられるのかは、ほとんど明らかにされていません。本研究では、新たに同定した物質が、その時間情報の伝達に関わっていることを世界で初めて明らかにしました。
 今後、この分野の研究が進み、ヒトの体内時計の時間情報の伝達機構が解明されることで、体内時計の乱れが原因と考えられる睡眠障害、うつ病、肥満などの治療に大いに役立つことが期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院自然科学研究科時間生物学研究室の吉井大志准教授は、ドイツとスウェーデンの共同研究者らと共に、キイロショウジョウバエを用いて、概日時計の出力物質の探索を行いました。その結果、「ITP (Ion transport peptide)」とよばれるペプチド(様々なアミノ酸がつながっている分子)が、概日時計の出力因子であることを世界で初めて突き止めました(図1)。
 ショウジョウバエの脳には約150個の時計細胞がありますが、ITPはその中の4つの時計細胞内に存在しています(図2)。1995年に発見されたPDF (Pigment-dispersing factor)とよばれる概日時計の出力物質と、ITPの両方を発現しないハエでは、行動の活動リズムに大きな乱れが生じ、睡眠量が著しく減少することが分かりました。ITPは神経伝達物質として働く神経ペプチドであることから、ITPが概日時計の時間情報を運ぶ、新規の出力因子であることが明らかになりました。
 概日時計の本体である脳の時計細胞から、時間情報がどのように出力されているのかは、すべての動物においてほとんど分かっていません。本研究では、モデル生物であるキイロショウジョウバエを用いることで、概日時計の出力物質を明らかにすることができました。時計細胞からの時間情報の出力は、複数の神経伝達物質が関与する非常に複雑な機構であると予想できます。

図1.本研究で明らかになった脳内の時計細胞からの時間情報伝達モデル


図2.左:ショウジョウバエの脳内には約150個の時計細胞(神経細胞)が存在する
  右:時計細胞の神経伝達物質PDFとITP(本研究)のハエ脳内の発現パターン

<見込まれる成果>
 体内時計の乱れは、睡眠障害、うつ病、肥満などの原因となります。しかし、その乱れが、体内時計そのものの乱れであるのか、体内時計からの出力系に問題があるのかは、不明な場合が多いです。したがって、体内時計の出力系を解明することが非常に重要となっています。
 キイロショウジョウバエの研究成果をすぐにヒトに応用することはできませんが、本研究成果を参考に、ヒトを含めた他の動物でも体内時計の時間情報の伝達機構が明らかになる可能性があります。

<補 足>
 キイロショウジョウバエは概日リズムを制御する“時計細胞”が正確に同定されている非常にすぐれた実験動物です。脳内の150個の神経細胞が、概日リズムに関わる時計細胞であることが明らかになっています。そのことから、キイロショウジョウバエの概日時計の研究は世界中で行われています。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(若手研究B)の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます発表論文:Hermann-Luibl C, Yoshii T, Senthilan PR, Dircksen H, Helfrich-Förster C (2014) The Ion Transport Peptide is a new functional clock neuropeptide in the fruit fly Drosophila melanogaster. The Journal of Neuroscience 34: 9522-9536
報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科
准教授 吉井 大志
(電話番号)086-251-7870
(FAX番号)086-251-7870
(URL)http://www.biol.okayama-u.ac.jp/tomioka1/top.html

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