岡山大学 理学部

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強い光から身を守る植物のメカニズムを解明~世界初 光の強弱による構造変化を可視化~

2014年07月07日

 岡山大学大学院自然科学研究科(理)生物科学専攻の山本 泰名誉教授、西村美保助教らの研究グループが、植物が光合成を行う器官である葉緑体のチラコイド膜の三次元構造を世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、2014年6月1日に日本植物生理学会の英文雑誌『Plant and Cell Physiology』(Oxford University Press)電子版に掲載されました。
 植物は光合成の機能を守るために様々な環境応答機構を備えていますが、その機構の詳細は未だに不明な点が数多くあります。本研究では、その機構を世界で初めて可視化することに成功しました。本研究成果は、複雑な光合成のメカニズムを明らかにし、基礎科学分野だけでなく環境問題やエネルギー問題における光合成の応用においても、とても大きな意味を持つ研究成果です。
<業 績>
 植物は太陽の光を使って水と二酸化炭素から酸素と有機物を作り出す「光合成」を行います。光は植物の光合成に必要不可欠なものですが、夏の直射日光のような強すぎる光は、植物の光合成機能にダメージを与え、光合成を阻害してしまうことが知られています。
 強い日差しから逃げることの出来ない植物は、どのようにして身を守っているのでしょうか。本研究では、光合成の反応が行われている葉緑体のチラコイド膜*1に焦点を当てて研究を行いました。植物のタンパク質は強すぎる光によって壊れ、こうした不要タンパク質が蓄積すると最後には植物細胞の死を招いてしまいます。そのため細胞死を防ぐ手段として植物は、強い光で壊れてしまったタンパク質を分解・除去する「FtsH」と呼ばれる酵素がチラコイド膜上に存在します。
 今回、岡山大学大学院自然科学研究科(理)生物科学専攻の山本 泰名誉教授、西村美保助教らの研究グループは、このFtsH酵素が光照射によってその位置を変え、不要タンパク質の分解を効率的に行えるようにしている様子を透過型電子顕微鏡*2で観察。不要タンパク質除去のメカニズムがスムーズに機能するよう、強い光の下ではチラコイド膜の構造が大きく外側に曲がり変化することを明らかにしました(図1)。
 また、チラコイド膜を連続的に傾斜させて撮影した多数の電子顕微鏡画像を元に、チラコイド膜の立体構造を再構築することに成功しました。得られたチラコイド膜の三次元モデルについて動画を作成し、いままで見ることが出来なかった強光下で起こるチラコイド膜のダイナミックな構造変化が世界で初めて可視化されました(図2)。



図1.チラコイド膜の電子顕微鏡写真
(A)暗条件下では、きっちりと層状に積み重なったチラコイド膜
(B)強光条件下では、チラコイド膜の両端が外側に大きく屈曲している様子が観察される
(C)電子顕微鏡写真をもとに、チラコイド膜の屈曲の度合いを計測。強光条件下では屈曲度合が大きい

図2.葉緑体の内部にあるチラコイド膜の三次元構造。チラコイド膜が何層にも重なっている様子を立体構造として三次元的に構築した。光ストレス下では、チラコイド膜の重なり構造が緩むことが分かった


<見込まれる成果>
 生産者として生態系のピラミッドを一番下で支えているのが植物です。植物の光合成反応は、太陽光と無機物から有機物と酸素を作り出すことができる、生物界で唯一のものです。近年、人工光合成の研究が進んできましたが、自然の植物の光合成効率にかなう成果は未だに出ていません。
 本研究では、いままで謎であった、自然の光合成機能を支えるチラコイド膜のダイナミックな動態を明らかにすることができました。今回の発見によって、光合成の場であるチラコイド膜の「構造」の重要性が浮き彫りになり、より効率的な人工光合成系の構築や環境ストレス耐性を備えた作物の創出に、本研究の知見が応用されることが期待されます。

<補 足>
*1 チラコイド膜:高等植物の葉緑体の中には、チラコイド膜という緑色の偏平な袋状の膜があり、幾重にも積み重なっています。このチラコイド膜はクロロフィル色素や光合成に関係する多くのタンパク質を含み、光化学反応の場となっています。
*2 透過型電子顕微鏡:光学顕微鏡では、観察したい対象に可視光線をあてて拡大するのに対し、透過型電子顕微鏡では電子線をあててそれを透過してきた電子を拡大して観察します。試料の構造や構成成分の違いによって透過する電子線の密度が異なり、それが顕微鏡像として得られます。
 本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究C(課題番号24570053)、岡山大学WTT、公益財団法人日本科学協会、公益財団法人両備てい園記念財団、公益財団法人日本生命財団の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Yoshioka-Nishimura M, Nanba D, Takaki T, Ohba C, Tsumura N, Morita N, Sakamoto H, Murata K, Yamamoto Y. Quality Control of Photosystem II: Direct Imaging of the Changes in the Thylakoid Structure and Distribution of FtsH Proteases in Spinach Chloroplasts under Light Stress. Plant and Cell Physiology, 2014.(in press)(doi: 10.1093/pcp/pcu079)
報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科(理)
生物科学専攻 助教 西村 美保
(電話番号)086-251-7861
(FAX番号)086-251-7876


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