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実施報告

フロンティアサイエンティストリテラシー [ 生物科学セミナー(Self Organization of Plant Microtubules) ]

担当者 Professor Geoffrey O. Wasteneys(Department of Botany, The University of British Columbia)
日時・期間 平成25年9月10日(火)16:00 〜 17:00
場所 理学部本館24講義室

目的

植物細胞の形態形成のしくみを理解する。
英語による講演や質問を理解し、慣れる。
科学的な議論やコミュニケーションに親しむ。

報告事項

 演者はブリティッシュ・コロンビア大学のジェフリー・ウエストニー教授で,植物細胞の成長と形態形成のしくみを研究され,世界的な業績をあげられている。今回は,微小管(チューブリンというタンパク質がつながってできたチューブ状の繊維)が,植物の成長を調節するしくみをお話ししていただいた。

  

講演では,植物をビルディングに,植物細胞を建物の中の部屋にたとえ,個々の細胞の形やサイズが植物全体の形態に大きく寄与することをわかりやすく話していただいた。本題では,ウエストニー教授の最新の研究をお話ししていただいた(Ambrose et al. Nature Comm.2, 430)。分裂を盛んに行っている植物細胞では,細胞の伸長が抑制され,より分裂しやすい状態が維持されている。これは,微小管が縦にならぶことにより,細胞が伸びるのが抑えられ,細胞分裂が促進されるためである。それでは,微小管が縦にならぶしくみはどのようなものだろうか?

  

通常,細胞の縁に到達した微小管は不安定化(脱重合)するため,細胞の縁をこえて微小管が伸びることができない。しかし,分裂が盛んな若い細胞では,細胞の縁にCLASPというタンパク質が局在して微小管と結合し,細胞の縁をのりこえて微小管の繊維が形成され,安定化されるため,微小管が縦にならぶことができる。このしくみにより,分裂組織の細胞が伸長せずに盛んに分裂し,根や葉などの器官が形成される。

  

また,微小管は伸びたり,縮んだりを繰り返すダイナミックな構造で,微小管同士が衝突すると,不安定化して縮んだり,お互いに結合して安定化し,束をつくったりする。また,微小管の上から新たな微小管が枝分かれして伸びだしてくる。このような微小管同士の相互作用により,自己組織的に規則正しい構造を形成することが,コンピューターシュミレーションと微小管のライブセルイメージングにより明らかになった。

  

講演と質問を通して,微小管がどのようにして植物細胞の形を制御しているかについて理解を深めた。微小管はヒトを含め,ほぼ全ての生物に存在し,細胞の分裂や成長方向を制御しており,がんなどの病気にも関与している。今回明らかになった植物での微小管制御が,動物細胞やがんなどの細胞分裂の病気に適応できるのか興味が持たれる。また,セミナーの最後に,海外で研究することの意義についてもお話ししていただき,充実した内容の有意義な講演であった。

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